銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 宇宙飛行士の秋本唯夫は日本人で初めて月に降り立つことに成功して、無事に日本に凱旋した。
 記者会見の席では月の写真が後ろの壁一面に映し出され、机には月の砂と石を詰めた重箱とススキが飾られて、その背後に唯夫とJAXAの理事長が座ってインタビューが始まった。
 絵としてはお月見風な日本情緒溢れる演出である。

《月に第一歩を降ろした時の気分はいかがでした?》
「第一歩というより第二歩をついてですが、なんか浮いているみたいに思いました」
 フラッシュが一斉に瞬いて、テレビ中継画面には、激しい点滅に注意してくださいのテロップが流れる。
 唯夫は目を細めながら続けた。
「そしてすぐに、ああ、そうか、これが重力が6分の1の感覚なんだなあって気づいて、月に来たんだなあと感動しました」

《月で見た印象的な景色を教えてください》
「それは月の荒涼とした地平から地球が頭を出し、やがて黒い宇宙の背景に全容を現すシーンです。白い雲と青い海をまとった地球はどんな星よりも美しいと感じました。あんなに美しい姿をこの肉眼で見れて幸せです」
 フラッシュが一斉に焚かれる。納得の相槌で記者の頭が上下に動いた。

《昔、アポロが旗を立てた時、あれ、風に揺れてるんじゃねという話があったんですが、日の丸を立てた時に風はありましたか》
「風はないよ、そもそも空気がないんだから」
 唯夫は軽蔑の視線で質問者を見た。

《昔、アポロが写真撮影したら、宇宙飛行士のバイザーに一人余分に宇宙飛行士の姿が映り込んでましたが、月面で人間がもうひとり増えてることはありましたか?》
「んなこたあ、あるわけないだろ。どこのトンデモ厨だよ」
 唯夫は質問者を睨みつけた。警備員が質問者のそばに行き警告する。

《で、月のセットはどこのスタジオにあったんでしょうか?》
「お前なあ」
 唯夫が質問者を叱ろうとしたが、それより早く警備員が質問者にヘッドロックをかけてそのまま外に引きずり出した。

 司会者が《すみません、無資格の記者を排除しましたので続行します》と言った。

《すみません、重箱を傾けて月の砂と石をよく見せてもらえますか?》
 唯夫が重箱を記者側に傾けると、フラッシュが瞬きまくる。

《理事長は月の第一歩をご覧になってどんな気持ちでしたか?》
 するとJAXAの白髪の理事長がマイクを手で引き寄せた。
「私が生きてる、生きてるうちに、日本人が月に、うぅぁぁ……」
 感極まったというやつだろう、理事長は泣き出してしまった。

《それではこの辺で時間となりましたので終了させていただきます》
 こんな具合で記者会見はいまひとつ盛り上がりに欠けた。

 それからも唯夫はいくつものマスコミ取材やインタビューをこなさなければならなかった。
 唯夫が妻と娘息子を伴い故郷の実家を訪れたのは日本帰国から一週間も経っていた。
 
 父母と姉夫婦はご馳走を並べて、英雄となった息子を待っていてくれた。
「よくやったな」
 父に褒められて、唯夫は謙遜する。
「まあ、決められた手順を遂行しただけだよ」 
 娘息子は「じじ、ばば」と言って久しぶりに会った父母にまとわりつく。
「婆ちゃんは?」と唯夫は聞いた。
「うん、さっきこっちへ来いよって言ったら、今、観たいテレビがあるからって、まだ自分の部屋にいるんだよ」
「そうか」
  
 祖母はこたつでテレビの時代劇を見ていたが、唯夫が現れると珍しい者でも見るように声をかけてきたた。
「どちらさま?」
「唯夫だよ」
「ああ、唯夫だわ、大きくなったねえ」
 唯夫は誇らしげに言った。
「おばあちゃん、俺、月に行って来たよ」
「はあ、米撞きに行って来た?」
「いや、そうじゃなくて、空に浮かぶお月様まで行って来たんだ。
 記者会見とか見なかったの?」
「見たけどありゃあ嘘でしょ」
「嘘じゃないんだ、ほら、これを見てごらんよ」
 ここに来るタクシーの中でダウンジャケットを少しだけ裂いて取り出した白い羽毛の先を、唯夫は祖母に手渡して言った。
「これが月のウサギの毛だよ」
 祖母は目を急に見開いて、唯夫をしげしげと見詰めた。
「唯夫は偉いことしたんだねえ。子供ん時から大きくなったら月のウサギに会いに行くって言ってたよねえ。まさか本当に月に行くとはねえ」
「ああ、すごいだろ」
 唯夫はまだ幼稚園の頃、祖母から絵本を見せられて、将来、必ず月のウサギに会いに行くと祖母に約束していたのだった。
「やっぱり月にウサギはいたんだねえ」
「当たり前じゃないか、ウサギがいなきゃ誰が餅を撞くんだよ」
「偉いねえ」
 祖母は満足そうに唯夫の手を強く握り締めた。
 唯夫にとっても今回のミッションの中で一番満足した瞬間だった。      了




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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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