銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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これは以前書いた「本当は怖いYouTubee」に登場したヤクザさんが主人公です。
検索で来られた警察、麻取の方、ご苦労様です、息抜きしてって下さい(^_^;


「大麻売ります」


 HHKの集金人は六本木の裏手にある狸穴ハイツというマンションを訪れていた。
 五階建てのくせにエレベーターもないという築40年超の建物である。

 その最上階に「道に花咲く運動事務局」というプレートのついたドアがある。
 集金人はドアにHHKのステッカーがないのと、顧客名簿に登録がないことを確認してチャイムを押した。
「はいっ」
 インターホンから男の声がした。
「HHKでございます。道に花咲く運動事務局さんはテレビはご覧になってますか?」
「たまに民放を見るぐらいだ」
「それで受信料の方なんですが、テレビをお持ちの方には皆さんにお支払いいただくという決まりなんですよ。お願いできますか」
「アニキに聞くから待ていや」
 その言葉に集金人は感づいた。ここはもしかしてヤクザさんの部屋かもしれない。
 集金人はそっと立ち去ろうと廊下を引き返しかけた。
 その時、ドアが開いて呼び止められた。

「おう、HHK、待てや」

 部屋から廊下に出て来たのは、五分刈りの頭、濃い茶色のサングラス、左頬に約五センチの古い切り傷、アロハシャツ、雪駄という、劇画から抜け出してきたようなヤクザのおじさまである。
「はっ、お支払いいただけるんでしょうか」
 集金人の言葉はヤクザに一蹴される。
「アホ抜かせ。
 うちはHHKなんぞ見んわい」
「そうですか、一応規則なもので。
 えへへ、お騒がせして申し訳ありませんでした」
 集金人が愛想笑いを浮かべて、立ち去ろうとするのをヤクザが「待てや」と呼ぶ。
「は、な、何でしょうか?」
「最近、チデジいうて、うるさいが、お前らは何したいんや?」
「はあ」
 集金人はヤクザの質問の意図がわからなかった。
「血出痔、血出痔、言うとるやないけ、ボケ、血の出る痔が流行っとるんかい?」
 集金人は噴き出したいのをなんとかこらえて苦笑を浮かべた。
「あ、それは、地上デジタル放送の略でして」
 集金人はマニュアルの地デジの説明を披露しようとしたが、その前に、ヤクザが声を荒げた。
「なんやと!」
 ヤクザの表情が険しくなっている。
「HHKが言葉を略するさかい日本語が乱れるんやないかい。
 我が国の文化にごつう責任感持って、省略せずに発言しろや、このタコが」
「も、申し訳ありません。ご意見は上司に伝えておきます」
 集金人は平謝りである。

 その時、子分らしき剃り込みの入った長い顔の若い男が顔を出して言った。
「アニキ、そろそろ、まいんちゃんの料理番組が始まりますぜ」
 反射的にアニキと呼ばれたヤクザは叱った。
「アホ、今、HHKが来てるやろ」
 集金人はハッとなった。それはHHKの児童向け番組《クッキンアイドル ウイ!ウマい!まいん!》ではないだろうか。
「あの、うちの番組をご覧でしたら、受信料を払ってもらえませんか?」
 集金人は少しだけ強気に言った。
「アホこけ、見とるとは言うとらんやないけ。
 うちの事務所はな、時間を教える暗号にHHKの番組名を使うとるだけや」
 しかし、なにやらスピーカーを通した子供の歌声が漏れてくるのである。
 ガチで観てるじゃないか。
 集金人はそう思いつつも言葉に出せなかった。

 アニキは大きく咳払いをした。
「まあ、ええわ、今日のところはこれで許したる。
 おい、種、持ってこいや」
 アニキが若い男に言うと、剃り込み男はダッシュで部屋の奥から、手のひらサイズの紙袋を持って来て、「マリーゴールドです」と集金人に渡した。
「ええか、HHK、お前の家の近所の道で殺風景なところがあったら、この種を植えて、毎日、水をやって育てるんや」
「は、はあ」
「花一輪でも、あれば通行人の皆さんの心が和むやろが」
「はあ」
「はあやない、『わかりました、閣下』やろ」
「わ、わかりました、閣下?」
「わかればええ、頼んだで」
 アニキはそそくさと部屋の中に引っ込みドアをバタンと閉じた。

 集金人はとぼとぼと階段を降りだしたが、その時、
(あのHHKのボケのせいで、まいんちゃんのオープニングを見逃したやないか)
 頭上遠くからアニキのぼやきがかすかに届いた。

 ▼
 
 子供向け料理番組を見終えたアニキはアロハシャツの上に白いジャケットを羽織り、剃り込みとパンチパーマの子分二人を従えて歩いて買い物に出かけた。

「おう、材料のメモは持ってきたか」
「へい、ぬかりはありません」
「今日のオムレツ、うまそうでしたね」
「おう、まかせときな、柳刃包丁を握らせたら組で一番だった俺が作るんだから」
 一瞬、空気が止まった。
 一般人は柳葉包丁の裏の意味を想像して絶句してしまうところだが、二人の子分はアニキの作る料理の味を思い出して返事が止まったのである。
「へ、へい」
 答える子分のトーンが妙に下がっている。
「なんだ、そのシケた声は、あぁ?
 俺がまた下手打つとでも思ってやがるのか?」
「と、とんでもねえです」
「あんな小学生のガキでもできる料理だぞ」
 そうなのだ。
 アニキは昔から料理好きで、昼の料理番組を見てその通りに作ったおかずを若い衆との夕食に出していたのだが、どうしてもテレビ番組のようにできない。さばの味噌煮はさばのすり身になってしまうし、海鮮チャーハンは海老入りおじやになってしまう。
 これは料理番組のレベルが高すぎるためだと考えて、今では子供向け料理番組にレベルを落としているのだ。

 スーパーで買い物を始めたアニキ一行のまわりは、いつもサーッと客が遠ざかり見通しが良い。
 パンチパーマはふと山積みの缶ビールのケースに、いつもと違うものを見つけた。
「アニキ、あのビール」
「どうした?」
 パンチパーマは山積みに駆け寄りひとつ抱えて来ると、それをアニキに見せた。
「おつまみがついてますぜ」
 半ダースの箱の部分にさきイカとつまみタラの袋が貼り付けてある。
「おお、ええやないか、三っつ買うたれや」
「へい」

 アニキ一行は肉、玉ねぎ、人参、卵などオムレツの材料とビール三箱をレジテーブルに上げた。
 30代主婦のパートタイマーと思われるレジ係はおどおどしながらレジの読み取り窓に商品のバーコードを向けて、値段を読み上げながら通してゆく。
 そして缶ビールの箱を通そうとした時、アニキが声をかけた。
「おう、姉ちゃん、ビールは要らんのや。
 つまみだけ切り取って勘定してくれや」
 レジ係は「えっ」と言った後、絶句した。
「はよ、せいや」
「そう言われましても」
「わしらは日本の平和のために戦ってる革命戦士や。
 革命戦士はのう、酒なんぞに心を乱されてはあかんのや」
「はあ?」
「わかったらつまみだけ売らんかい、タコ」
「あの、値段がついてないので分けて売ることはできないんです」
「なんやと、責任者呼んで来いや」
 レジ係はマイクでマネージャーを呼び出した。
 薄い緑のジャンパーを着て、店のロゴが入ったサンバイザーをかぶったマネージャーはアニキたちを見た瞬間に目が動揺した。
「はい、何かお困りでしょうか」
 マネージャーは愛想笑いを作ったが、ほぼ凍っていた。
「いや、このビールについてるつまみを売ってくれやと言うとるのに、この姉ちゃんが値段がついてないからでけん言うんや」
「はあ、なるほど。
 たしかにこのおつまみだけですとバーコードがついてませんので、うちの店では計算ができないんです」
「そんなことないやろ、バラ売りのピーマンは手で入力しとるやないけ」
 このヤクザ、意外に細かいとこまで見てるなとマネージャーは焦った。
「しかし、値段がわかりませんので」
「そんなもん、つまみのついてるのと、ついてないのと引き算すればわかるやないけ」
「これは販売促進のための非売品ですので、ビールをお買い上げいただきませんと」
「ごちゃごちゃした話はええのや。
 日本の平和のために戦ってる革命戦士のわしらがつまみだけ欲しい言うとるのや」
 アニキは人差し指でマネージャーの鼻を突かんばかりに、演説する。
 しかし、マネージャーが気になったのは人差し指より、欠けている小指の方だ。
「レジの器械がアホでだめや言うなら、そっちも侠気出して、ビール買い取って、つまみだけ男対男で売ってくれりゃあええ。
 ビールはお前の部下に配ったれ。
 車で通勤しとる部下にはわしにはお前が大事だから、このビールはくれぐれも家に帰ってから飲めや、言うたら、部下も感激してくれるで」
 結局、マネージャーは怖さと悔しさで目を赤く腫らしながら、ビールをポケットマネーで購入し、つまみをヤクザに無料で譲った。
「お、タダでええんかい?」
「差額はゼロ円ですので」
「すまんのう、お前の侠気、確かに受け取ったで。
 こっちも男や、もしもの時は助けに飛んで来たるわい」
 アニキは「道に花咲く運動事務局」の名刺を渡して、店を後にした。

( 後編につづく )







 これはフィクションです。現実の個人、団体とは一切関係がありません。

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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