銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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え、あの名作『檸檬』に似てるって? 梶井基次郎さま、すみません!




 その塊は俺を始終監視していたのだ。
 そいつはずっとずっと前から、俺のそばにいて、何も言わぬまま、一挙手一投足を見つめていたのだ。
 しかし、俺はそれほど苦痛ではなかったのだ。
 彼女があのことを言い出さないうちは。
 

 街から街を彷徨うように歩き続けた俺は、ふと果物屋の前で足を止めた。
 その果物屋はテレビなどでもよく紹介される最も有名な果物店『万疋屋』であった。
 それはすこぶる立派な店であって、果物の美しさと美味しさを演出するということにおいて最も巧みに感ぜられた。果物はガラスケースの台の内に並べてあって、この果物たちがもっと小粒であったら通りすがりに一瞥した者はここは宝石店かと錯覚してしまうだろう。
 パパイヤの黄色、マスクメロンの若竹色、巨峰の紫黒色、キウイの緑、桃のピンク、マンゴーの濃橙、マスカットの黄緑色、クリスタルローズの赤ワイン色。
 見ているだけで、何か華やかな美しい音楽のメロディが聞こえてきそうな色彩のハーモニーである。
 俺はその店内へと足を踏み入れた。

 若い女性店員はガラスケースを眺めている俺ににこやかな挨拶を寄こした。
「いらっしゃいませ。
 ご注文がお決まりでしたら、お申し付け下さい」
 俺はガラスケースの内側の桃とマンゴーを見較べた。
 大きさやコントラスト的にはマンゴーがよさそうだ。
 問題は少し距離をおいた店員がまだマントゥーマンで俺をマークしていることだ。
 そのうえガラスケースの端には警告プレートが貼り付けられている。
 悪ガキどもの間ではその店名のためか、万疋屋で万引きすることが一種のステータスになっているらしい。その警告のため、プレートには「万引きされますと驚いた店員により果物ナイフで怪我をされる場合があります」と書かれている。
 最初はもっとありきたりな「万引きは直ちに警察に通報します」だったが、効果が薄いため、この文に変えたそうだ。おかげで万引きの被害件数が2割ほど減ったと新聞に書かれていた。
 だから、見つからないようにタイミングは慎重に選ばなければならないのだ。

 その時、俺の背後から入ってきた初老の女性客が店員に声をかけた。
「富有柿はあるかしら?」
「いらっしゃいませ、ございます」
「よかった、五つほど貰うわ」
「かしこまりました、少々お待ちください」
 店員は富有柿を出すためにしゃがみこんだ。
 今だ。
 俺は素早く周囲を見回し、懐から出した白球をそっとマンゴーの中に置いた。
 その白は濃橙の中で浮き上がっている。
 捨てたのではない。捨てるならもっと他の場所で目立たないようにした筈だ。
 つまり、これは時限爆弾なのだ。万疋屋のショーケースのマンゴーの中で真っ白く輝く時限爆弾は、もう十分したら、この万疋屋がマンゴーのショーケースを爆心として爆発を起こし大騒ぎになるだろう。
 俺は身を翻すとそっと店から出て行こうとした。

 しかし、次の瞬間。

「こらあ!」
 突然、甲高い声で怒鳴られて、俺は足を止めざるを得なかった。
「この冷血漢、わしを捨てるのか」
「……」
「親不孝にもほどがある」
「違うんだよ」
「何が違う?
 えっ?
 言ってみろ!」
「俺じゃないんだ」
 俺はマンゴーの中の声の主に向き直った。
「誰だと言うんだ!
 今、わしを捨てたのはお前じゃないか!」
 いよいよ甲高くなる声にたじたじとなりながら俺は答えた。
「だから、実は猫娘なんだ。猫娘が風呂に入ってる時にいつも覗かれている気がするから、父さんをうんと遠くにやってくれと、ごめ……、あ、あれ?」
 さっきまで勢い激しく怒っていた目玉親父はうつむいたかと思うと、急に押し黙ってしまった。
「まさか、父さん!
 本当に猫娘の裸を覗いていたのか?」
「す、すまん、鬼太郎、つい、出来心で……」
 目玉親父の告白に、俺は怒鳴ってしまった。
「ざけんな、このエロおやじ」
「すまん、以後、二度とせんから許してくれえ」
 目玉親父は手を合わせて鬼太郎を拝むのだった。
「たくっ、しょうがないな」
 鬼太郎は、驚いたまま固まっている店員の前のショーケースから、目玉親父をつかむと、下駄を大きく鳴らして歩き去るのだった。     おしまい。。





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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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