銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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 ここには神がいると感じたのだ。自分のそばに神がいると感じた……。

 昔、アポロ計画に参加した宇宙飛行士の感想にそんな言葉があった筈だ。

 こうしてステーションから地球を眺めていると、神と共にいるような気分になる。
 地球の上に国境なんて見えない、たったひとつの人類のよりどころなのだ。
 ここにいると神が地球人に望むことが言葉を超えた意味としてわかってくる。
 誰もが、ここまで来て地球を眺めおろす時代が来たら、地球上から戦争なんてなくなるに違いない。


 宇宙の闇に浮かぶ星は、砂漠の茶と密林の緑と海の青と雲の白の見事な彩色の神聖なオブジェだ。
「メアリー、地球は美しいね。
 『美しい』って言葉は、この景色から生まれたんだ、そう思わないかい?」
 リュウが言うと、メアリーは微笑んだ。
「たぶんそうね」
 しかし、メアリーは続けた。
「だけど、なんだか悲しくなるわ」
 リュウは少し戸惑った。
「僕は悲しくはならないな、逆に雄雄しく神々しい印象だよ」
 メアリーは尋ねた。
「リュウは惑星ソラリスって映画は観た?」
「ああ、ソラリスの海が生きていて、人間の無意識の幻影が現れるという話だね」
「そう。ソラリスとは違うけど、こうして見ているとね、
 その人間の無意識の一番醜いことが、雲に覆われて宇宙から見えないところで行われているような気がするの」
「そうかな、でも一番美しいことが行われているかもしれないじゃないか?」
 リュウが言うと、メアリーはふっと笑った。
「だからあなたが好きなのよ、だけどキスはお預けよ」
「規則を変更できないかな?」
「あなたが大統領だったら、よかったのに」
 リュウらは笑みを交わし、指相撲のように拳を合わせた。
 メアリーとはNASUの訓練センターの時から親しくしていた。
 恋人みたいなガールフレンドというか、ガールフレンドみたいな恋人というか、どちらに近いか考えると数学みたいで、リュウは頭が痛く、眠くなる。


 その夜、と言っても、地上の自転よりはるかに速いスピードで昼と夜が繰り返される宇宙ステーションにあって、リュウに設定されている夜という意味だが、リュウは奇妙な夢を見た。
 熱帯らしき暑い地方、太陽が照りつける中、リュウは町の門の上で休んでいる。
 それは高さが3メートルぐらいで、白い箱型の石を積み上げた門だ。
 あちらから女が頭に水甕を乗せて歩いてくる。
 その後を男が距離をおいて歩いている。
 ちょっと見には偶然、同じ方向に向かっているように思えた。
 だが、突然、男は背負っていた小型の弓に矢をつがえると女めがけて放つと、素早く逃げて行った。
 水甕は石畳の上に落ち、女は崩れ倒れた。
 リュウは慌てて門から飛び降り、駆け寄った。
 女の肩を抱いて起こすと、その顔はメアリーだった。
 胸には後ろから矢が貫通したらしく、血がどんどん流れ出ていた。
「助けて、リュウ」
 メアリーはそう言って、体の力を全て失った。

 数瞬、なまなましい鮮血のイメージと鉄錆めいた匂いに頭を振ったリュウは、大きく深呼吸すると、また眠りに落ちていった。
 
 †††

 朝、定刻5分前にカンガルーポケットと呼んでいる寝袋を揺すられ、リュウはデービスに起こされた。
「リュウ、電池パネルの出力が下がってるんだ。外へ出てラインが大丈夫か確かめてくれないか?」
「電池パネルが?」
「ああ、原因がわからなくて」
「オーケー、見てくるよ、もしかしたらものすごい天文学的確率で宇宙ゴミがラインにぶつかって切ったのかもしれない」
「助かる、急いでくれ」

 ご存知の通り、ステーションから船外作業に出るためには二重ハッチの気密室に入る。
 昔はこのハッチに入る前にも純酸素供給と減圧待機があったのだが、今は宇宙服自体の内圧が倍に上げられているので、すぐ外に出れるようになった。
 内側ドアの前に立ったリュウに、ヘルメットを持ってくれるデービスがいつものようにジョークを飛ばす。
「ヘイ、リュウ、コインが浮いていたら、それは俺が田舎で放り投げたやつだから拾ってきてくれよ」
 その時、誰かが船外に出る時はいつも操縦室からサポートする役のメアリーがデービスの後ろまで来ているのに気付いた。
「メアリー、どうかしたのか?」
 リュウが尋ねるが、メアリーは無言で俯いていた。
 デービスがヘルメットをつけてくれる。
「グッドラック!」
 ポンと頭を叩かれて二重ハッチに入り、親指を突き立ててデービスを見ると、彼はメアリーに何か怒鳴っていた。そしてメアリーも怒鳴り返している。険悪な雰囲気だ。
「どうしたんだ?」
 コミュニケーションキャリアを通して聞いてもデービスの返事はない。
 デービスはリュウの視線に気付くと、作り笑いを浮かべ、敬礼を送り、外へ行けというジェスチャアだ。メアリーも背を向け去って行く。
 ちょっとした喧嘩か?
 リュウは深く考えるのをやめ、開いた外部ドアの手すりに手をかけ、命綱を外側のフックにしっかりとかけて、宇宙に飛び出した。背中には巨大ランドセルのような船外活動補助装置があり、肘掛のように突き出たコントロールレバーを倒すと、ランドセルの後部の噴射口からガスが噴き出てゆっくりと飛んで行った。

 †††

 シャトルの操縦席と比べるとかなり広い司令室に並んだデービスはメアリーに言う。
「俺の命令に逆らう気か?」
「そうじゃないけど、リュウを外に出すことないわ」
「非常事態下で足手まといになるクルーは俺が排除できる。規則で決まってる」
「そうだけど、外にいたら発射の時、危険だわ」
「いいかい、今はもう戦時なんだぞ。
 そして、メアリー、君は表向きは科学者でも、軍の上級潜入クルーだ。
 命令に逆らうなら逮捕して軍法会議だ」
「わかってる、わかってるわよ」
 司令室にいるのはデービスとメアリーの二人だけで、他のクルーはもう一人の軍の潜入クルー、ジョージが作業室に軟禁している。

「さあ、暗号シートを開けてくれ、こっちの暗号と照合するぞ」
 デービスは、先ほど暗号で送信された赤文字の紙を引っ張り出して言う。
「325ページ」  
 メアリーは毎朝更新される暗号シートをボックスから取り出した卓上サイズの本にかぶせて言う。
「有効行は最初は6行目」
「チャーリー、ビクター、アルファ」
「次は10行目」
「オスカー、ブラボー、エクスレイ」
「判別子合致、正当な命令と認めます」
 デービスはうなづいて本文を読み上げた。
「本文 戦略空軍最高司令官は大統領の命令を受け、ステーション装備ミサイルの発射を指示する。
 作戦名はヒンドラの稲妻、目標はテロリストの独裁政権国家」
 デービスは目標地点の緯度経度を読み上げ、メアリーがキーボードで打ち込み、
 メアリーがもう一度読み上げ、間違いのないことをデービスが確認する。
 座標が打ち込まれた。

 二人はそれぞれの目の前の、普段は別の用途に使われているボタンを5センチほど引いて、折り倒すと、それはミサイル発射レバーに早変りする。
 地上と違っているのは、ここから発射するのに重力に逆らう必要がないのでミサイル本体がはるかに小型であること、そして発射の時は反動を避けるため、静かにリリースして距離をおいてから、点火することだ。
 二人で発射レバーをまわすのは冷戦時代のミサイルサイロと変わらない。
 戦時下では前線基地のリモート操作が使えない可能性がかなりあり、現場発射官に発射が委ねられる。しかし、一人に任せきると、万が一、彼が錯乱したり、洗脳されて暴走した場合止められなくなってしまう。それを防ぐため、常に二人の発射官が同時にレバーをまわさないと、ミサイルは発射されない仕組みになっているのだ。

 しかし、メアリーはレバーに手をかけない。
「オールライト、メアリー、レバーに手をかけろ」
「……」
「手をかけろ、命令だぞ」
「いや」
「命令だ、レバーに手をかけろ」
 そう怒鳴るデービスは小型の拳銃を取り出してメアリーに向けていた。
 もちろん規則を無視して軍が持ち込ませた拳銃だ。
 メアリーは両手を上げて首を左右に振る。
「そのレバーをまわした結果を考えてみたの?
 ヒトラーと同じ発想よ、相手を根絶やしになんてできない。
 馬鹿げてるわ」
「もう一度だけ言う、命令だ、レバーをまわせ」
「やだ」
 メアリーが言うと、デービスが怒った。
「自分の任務を実行しろ、さもないと本当に撃つ!」
 
 その時、ドアが開いて宇宙服を脱いだリュウが入ってきて、左手でドアをしっかりとつかんで右手でヘルメットを投げつけた。
 メアリーが会話を聞かせて、いったん閉めたドアを再び開けて呼び戻したのだ。
 ヘルメットは地上よりゆっくりとしたスピードでデービスに向け飛んでゆく。
 反射的にデービスは椅子から飛び跳ねて、引き鉄に手をかけた。
 銃声が響いて、銃弾が飛び出したが、支えのないまま拳銃を撃ってしまった反動がデービスの体を縦にくるくると回しだした。
 銃弾は椅子の反対側に身を沈めたメアリーの頭の脇をぎりぎりでかすめて、壁に当たってピュンと軽い衝突音が響き、反転して床に当たりまた衝突音が響いた。
 次の瞬間、くるくると回転を続けていたデービスが「Ouch! 」と叫んだ。
 それからも彼は、ずっとくるくるとまわり続けた。

 リュウが駆け寄り肩を抱くと、メアリーはデービスを振り返って言った。
「自分で撃った弾で死ぬなんて天文学的確率だわ」   

                                   了





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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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