銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

佐藤先生たちは、最初に売店を覗いたが、こころの姿はなかった。


天井のスピーカーからはアナウンスが流れている。

《川津辺こころさま、川津辺こころさま。

至急、最寄の電話から小児病棟ナースセンターにご連絡ください》


連絡が入れば、すぐ報告があるはずだが、携帯は黙り込んでいる。


佐藤先生は看護士のリカとアカネに尋ねる。

「どこか、こころちゃんが行きそうな場所、心当たりはあるかい?」

「心当たりと言われるとあまり」

アカネが困った顔をしてると、リカが思い出したように言った。

「そうだ、ソフアから中庭を眺めてるのが好きだって言ってたことがあります」


「中庭を眺めるソフア?」

「ほら、外来棟へ行く廊下のところ」

「よし、そこへ行ってみよう」

佐藤先生はまた走り出した。


廊下のソフアにパジャマの女性が横になっていた。

近寄ると、携帯を手にしたままこころが眠っている。


佐藤先生がこころの肩を揺すった。

「こころちゃん!」

「こころちゃん!」


こころは眠そうな目を開いた。

「あれ、佐藤先生、先生もお昼寝しにきたんですか?」

だが、佐藤先生はいつになく真剣な表情だ。

「いいかい、こころちゃんの免疫はまだ不十分かもしれないんだ。

だから、今すぐ、クリーンルームに戻るよ」

「えー、やだあ」

こころが喋ろうとするのを、佐藤先生が人差し指を立てて「シー」と制した。

アカネがこころの顔を消毒ガーゼで拭いてマスクをつけた。

リカが借りてきた運搬車のベッドに乗せられて、こころはクリーンルームに戻された。


こころの母親は呼び出しを受けてびっくりして駆けつけた。

母親の前に、内科部長、佐藤先生、望月先生、そしてクリーンルームの看護士二人がずらりと並び頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」


「どういうことなんですか?」

内科部長の先生が説明する。

「受け持ちの病棟の看護士なら患者さんの顔を間違うことはまずないんですが。

今回は馴染みのないクリーンルームの看護士が採血する際に、うっかり似た名前の方と勘違いしてラベルを貼ってしまったんです。

受け持ちの医師が数字を見れば、いつもと少し違うと気付いたかもしれないのですが、運悪く担当の佐藤先生は京都に学会があり、出張してまして望月先生が判定したのです。

結果、まだ免疫力の不十分な娘さんをクリーンルームから出してしまったんです」

「そんな。こころは、こころは大丈夫なんですか?」

佐藤先生が答える。

「ええ、今のところ、感染症の兆候はありません。

ただ、感染して症状が出るまで時間がかかるので、これから数日は安心はできません。

細心の注意を払って監視します」

内科部長の先生が言う。

「この件については、病院としまして、警察にも報告し、厳正な処分を行います。

何か納得いかないことがありましたら、弁護士がお答えしますので」

こころの母親は言った。

「処分なんかいいですから、娘を一刻も早くきちんと治して下さい。

佐藤先生、お願いします、娘を完全に治して下さい。

親の希望はそれだけです」


「はい、全力を尽くします」

佐藤先生はそう言って唇を噛みしめた。


(つづく)



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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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