銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

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これはテレビの「ロス:タイム:ライフ 4看護士編」について、ブログ「舞台の効果音」のhinamiraiさんがなさった楽しい推理に触発されて、放送前に提示されてるあら筋から想像して書きました。
ドラマのキャストは看護師松永由紀子(上野樹里)、恋人荻野政一(設楽統)、自殺未遂男尾元勇蔵(温水洋一)。雰囲気はいただきましたが、大きく違う設定もあるのでいわゆる二次小説とはかなり違うものです。


「ロスタイムライフ 看護士編」

 1

 白衣に空色のカーディガンを羽織った由有子は、ふらふらと病院の門をくぐった。
 廊下で知り合いのナースが声をかけても答えも、振り向きもしない。
 小児病棟に戻ったのは習慣のなせることで、ここへ戻ろうという意識もなかったのだ。
 小学4年の篠田かすみが病室から由有子を見つけて、廊下に駆け出し、
「ゆうこさん、見て見て、テスト、ハナマルもらったよ!」
 院内学級のテストを見せ自慢したが、今の由有子にはいつものように褒めてやる余裕は皆無だ。
「どうしたの、ゆうこさん?」
 聞いたかすみに、答える代わりに、
「うるさいわね!」と悪態を吐いた。そのまま走り出し、涙がどっと流れた。

 休憩時間、由有子がお昼を買いにいつもの惣菜屋に行くと、店は臨時休業だった。そこで近くの喫茶店に入ったのだった。
 するとそこに、恋人の検査技師、沖野成一が、見知らぬ、由有子より若い女と親密に話し込んでいたのだ。
 由有子は気付かれないように、彼の背後のプランターの陰の席に座り、聞き耳を立てた。
「ねえ、結婚式はさ、どこでしたらいいかな?」
 由有子は自分の耳を疑った。すると成一の声が響いた。
「そんなの俺に聞かないで、自分で決めろよ」
 由有子はその言葉に血圧が急降下するのがわかった。
「たくっ、お前はひとりっこだから、俺に甘えて困るよ」
「だって、他のひとに相談できないでしょ、こんなこと」
「ずっと前からウェディングドレスて言ってたじゃん、洋式がいいんだろ」
「それはそうだけど、式場とか、いろいろあるみたいだからさ」
「安めでいいんじゃないの?
 その分、新婚旅行にまわした方が絶対いいって」
「なるほどね、うん、そういうふうにしよっか」
 
 由有子は幽霊のようにふら~と立ち上がると、お冷やを運んできたウェイトレスの会釈に答えもせず、店から出て行った。
 成一とは既に5年間つきあってきた。
 先週だって、由有子の部屋に来て、愛し合った後、成一は「そろそろユウの親にも会って、きちんと挨拶しないといけないな」などと言ってたのだ。
 あれは一体、何なんだ?
 由有子は騙されていたのだ。もしかしたら成一は結婚詐欺犯で今の女の子も騙されているのかもしれないが、いずれにせよ由有子が騙されたという事実に変わりはない。

 2

 病院の屋上、由有子はナースサンダルを脱いで揃えると、思い切り息を吸い込んで叫んだ。
「もうやだ、みんな、みんなやだー!」
 目を思い切りつぶって体を投げ出すと落下が始まった。
 そうだ、ここでたしか走馬灯だ。
 一生の出来事が走馬灯のように流れるとか言うやつ。
 あれ、いけない、走馬灯てどんなんだっけ?
 由有子が心に呟くと、男の声がした。
「ほら、昔、お盆に帰省した時、仏壇の前にあったろう、弟の達也がコンセント入れたら回り出した」
「そう、あれあれ、あ……」
 由有子は目を開いてキャッと叫んだ。
 目の前に男の顔が普通にあった。つまり由有子と同じスピードで落下してるのだ。
「一緒に落ちて死んでくれるの?」
「バカこけ!」
 男がそう言ったとたんに落下がとまった。
「どういうこと?」 
「どういうこと?こっちの台詞だよ、いいからこっちへ来いよ」
 男に手を強く引っ張られると、由有子は一瞬で屋上に戻った。

 目の前に立つ男は、ジャージに革ジャンというおかしな格好。
 由有子はホッとしてしまう。
「いやあ、危ない、危ない、死ぬかと思った、ありがとうございました」
「今頃、気が変わって、生きる気になったのか?」
 男が言うと、気の動転してた由有子は我に返った。
「違った、もう死んでもよかったんだ」
「ふざけるなよ、大体、お前はまだまだ生きる予定だったのに。
 生まれる直前に指導霊から教えられただろう」
「頭が悪いので覚えてましぇん」
「いや、覚えてないのが普通だから、それはいいや。
 なぜ自分を殺し、殺される行為に走るんだ?」
「だってぇ、彼ったら私の他にこっそり付き合ってる女がいて、結婚式とか新婚旅行の話をしてるんだもの」
「なんだよ、たった、それしきのことで」
 男が呆れると、由有子は思い切り唇を尖らせた。
「そ、そっ…、それしきとは、ひどいですぅ。
 私にとっては人生の全てだったんだから。
 もう生きる希望も、何もありましぇん」
「なるほど、それで自分を殺し、殺されか、地上の人間らしいな」
「地上の…ていう、あなたは?」
「俺は、天使の管理人」
「天使の管理人?ですか?」
 由有子は男を頭のてっぺんから革靴の先までじろじろと見る。
「ああ、天使がちゃんと仕事できるか監視したり、補助するのが役目。
 ま、お前を天使に含めるのは、俺としてはかなり異論があるけど、もうこの世の地上は天使の絶対数が足りないんでね、上司が拡大解釈してやがるんだよ」
「私が天使ですか」
 由有子は笑った。
「子供の頃は、ちょっとこの仕事のこと、そんなふうに思ったなあ」
「遠い目のところ、ひとつ警告しとくけど、俺は別にお前を助けたわけじゃないから」
「えっ?」
「天使資格者には、死にあたり、延長ボーナスというかロスタイムが与えられるんだよ。
 それでお前は一時的に死を猶予されてるわけ」
「あ、そうなんだ。
 でもいいです、どうせこの世には、もう希望も未練もありましぇんから」
「そう、すんなり納得されると調子狂うけどな。
 あと、日没まで4時間ちょいある、これがお前の残り時間だ。
 最後は天使モドキらしく人助けでもしてすごしたらどうだ。
 ちょうど、今朝、自殺未遂でこの病院に担ぎ込まれた男がいる。あいつを立ち直らせるなんてのはどうだ?」
「それならすぐ済みそうですね」
「なんだ、何か他に予定あんのか?」
「ええ、ちょっと。死ぬ前にケーキ食べ放題行っとくべきだって、今、悟ったんですぅ」
「この最後に、そんな軽いもんを悟ってる場合かよ」
 
 3

 天使の管理人は由有子と個室の前で止まった。
「ここだな、さ、入ろうか」
「入るって、あなたは部外者でしょ」
「俺は生きてる人間には見えない。見える人間は猶予中のお前だけだ」
 由有子はドアを開けた。
「お邪魔します」
 天使の管理人と由有子が入ってゆくと、ベッド脇の椅子に腰掛けていた同期のナースが声を上げた。
「あら、由有子じゃない、久しぶり」
「うん、久しぶり」
 大伴伸男は精神安定剤を打たれてベッドの上で寝ていた。
 仰向けの腹が少しメタボで盛り上がった冴えない中年男である。
「この人、自殺未遂なんだって?」
「そう、薬みたい、胃洗浄でひどかったの」
「ミスズが番してんの?」
「逃げてまたやられたら、今度は病院の評判になるからでしょ、困るわ」
「じゃ、ちょっと私が見ててあげるよ」
「ホント?助かるわ、いろいろし残してたことがあるの」
「ゆっくりでいいよ」

「あれを見ろよ」
 天使の管理人に言われて由有子はサイドテーブルに置かれたビニール袋に目をやった。
 中にはダイヤの指輪が入ってる。
「どうやら、これは失恋だな、私と一緒だ」
 由有子が声に出して呟くと、まもなく寝てる男の目尻に涙が流れた。
「起きてるぞ、こいつ」
 天使の管理人に言われて、聞いてみる。
「もしかして、起きてますか?」
「あ、はい、起きてます」
 大伴は上半身を起こして「すみません」と頭を下げた。
 由有子は笑顔で言った。
「でも、助かって、よかったですね」
「そうなんですかね、まあ、そうなんでしょうね」
 大伴は照れて頭を掻いた。
「でも、看護婦さん、今、私と一緒、って言いましたよね?
 自殺したことあるんですか?」
「えーと、私の場合は今、途中で、日没頃に完結なんです」
「はは、冗談、お上手ですね」
 天使の管理人がいらいらして言う。
「あほな答えはいいから、彼を励ませ」
 由有子はうなづいて、聞く。
「気持ちは落ち着きましたか?」
「まあ、ひと区切りはついたような。
 だからといって生きる勇気が残ってる感じもしないですが」
 天使の管理人が「よかったら自殺の原因を話してみませんかと聞け」と命令した。
「えー、そんなこと、立ち入っていいのかな」
 突然、由有子がおかしなことを口走ったと感じた大伴は「あ、あの」と口に出した。
「あ、大丈夫ですよ、なんでもなくて、ただその。
 よかったら、自殺の原因とか話すと、気分が楽になるかも、どうです?」
 すると大伴はこめかみのあたりをひっかいて、話し出した。
「お恥ずかしい話なんですよ。
 実は、僕、女子高校生とつきあっていい仲だったんです」
「どこで知り合ったんですか?」
「ある日、いつものように居酒屋で一人で飲んでたら……」
「ちょっ、居酒屋で一人ですか」
 由有子の突っ込みに、天使の管理人が「そこはスルーしろ」と注意した。
「あ、そこはスルーです、続きをどうぞ」
「ええ、飲んでたら、セーラー服の女の子が来て、
 退屈してるから、一緒に飲もうって」
「ちょっと」と言いかけると天使の管理人が「そこもスルー」と。
「スルーです、続きをどうぞ」
「で話してみたら、すごく合うんですよ。
 いやあ、これは運命の人かもしれないと思ってたら、あっちも運命じゃねって言ってくれて、気付いたらラブホテルのベッドでした」
「てッ、展開早ッ!」
「あ、写真見ますか、トミちゃんで~す」
 大伴は嬉しそうに携帯を開いて見せた。
 その待ち受けの写真を見て由有子は落ち込んだ。
 たしかにセーラー服は着ているが、化粧がきつく年齢はかなり上だろう。どうしてこんな女を高校生だと思うのか。由有子と天使の管理人は溜め息を吐いた。
「彼女、歯医者の大学に入りたいけど、家は理解がないと嘆くので、僕が塾の費用300万たてかえてあげたんです。
 そしたら、トミちゃん感激して、その、えへへ、僕と結婚したいと言い出しましてね、プチ整形したいと言うので800万貸してあげたんです」
 振り向くと天使の管理人はあまりの惨さに顔を左右に振り出した。
 しかし、大伴の話は止まらない。
「そして新居はここがいいよと言うので、千葉にあるという土地に1500万出しました。
 そしたらですね、トミちゃんのお父さんが出てきまして。
 なんと、怖いヤクザ屋さんのお父様なんですよ。
 ウチの娘を傷モノにしたな、ゴルゥアとお怒りになってですね、結婚話はなしになり、慰謝料3000万を借金して払ったんです。
 そしてトミちゃんにも会えないままなんです」
 由有子はなんて言葉をかけたらいいのかと振り向いたが、天使の管理人は頭を抱えてうずくまって呟いた。
「ひどい、ひどすぎる、こんな汚いのが地上のやり方なのか」
 慰める言葉も浮かばない話に、由有子は泣き出した。
 これには大伴が驚いた。
「あ、ごめん、トミちゃんに会えない僕の気持ちをわかってくれたんですね」
 由有子はますます泣く。それを追うように天使の管理人も泣いた。
「もう泣かないで下さい。僕の悲しみをわかってもらえたので、僕は今すごく生きる勇気がわいてきましたよ。ありがとう。
 よかったら、今度は看護婦さんの話を聞かせてくれませんか?」

 由有子は自分が成一に裏切られていたことを話して聞かせた。
 すると、大伴は顔を紅潮させて怒った。
「許せないですよ、こんな性格のいい看護婦さんを騙すなんて!
 僕がついていってあげるから、彼に怒鳴り込みましょうよ」
「いや、私はそこまでしてくれなくても……」
「僕の最大の理解者の看護婦さんが傷つけられたままじゃ、気持ちが収まらないんです。
 沖野って、同じ病院の検査技師なんでしょ?」
 大伴は由有子の手を引っ張って、廊下に飛び出た。
「なんとかしてよ、管理人さん」
 由有子が叫んだが、天使の管理人はゆっくりとついてくるだけだ。
「彼は今、非常に生気に溢れている。報告書には、お前の励ましが功を奏して自殺未遂者を立ち直らせたと書いてやるよ」
 
 4

 沖野成一はびっくりした。
 突然、仕事場に中年男が恋人の手を引っ張って現れたのだ。
「沖野さん、いますか?」
 成一はよくわからないまま、手を挙げて「私です」と答えた。
「あんたね、こんな心優しい素敵な女性と深い交際しておいてね、
 他の女もひっかけて、そっちも結婚の話をしているっていうのはどういうことなんですか?」
 大伴の言葉の意味が成一にはまったく理解できない。
「いったい何の話ですか?」
 その言葉に、引っ張ってこられた由有子が噛み付いた。
「何、とぼけてるのよ、私、今日、見たんだからね!
 成一さんとどっかの女が結婚式とか新婚旅行とか、いちゃいちゃと話しているの見たんだからね、言い逃れなんかさせないわよ」
「ああ」
 成一は一瞬声を上げ、うなづくと笑い出した。
「あれか、昼の喫茶店ね、あれは父親の後妻の娘だよ、つまり義理の妹。
 いずれユウにも会わせようと思ってたんだけど、近々結婚するんだよ。
 彼女、ひとりっ子だから、義理の兄である俺にいろいろ話を聞きたかったみたい。
 だから誤解だよ、心配すんなって」
 その言葉に由有子は奇声を洩らした。
「ヒッ、へェッ、そんな……」
「ユウはおっちょこちょいだなあ」
 成一は笑うが、由有子はめまいで倒れそうだ。
「看護婦さん、ただの誤解だったんだ、よかったじゃない?」
 大伴もホッとして言ったが、由有子は叫んだ。
「よくない!私、ショックで飛び降りたんだよ!
 屋上から飛び降りたんだよ!」
 成一は笑ってる。
「何、寝ぼけてんだよ、ちゃんと足だってあるじゃない」
「どうしよう?」
 由有子は天使の管理人に振り向いた。
「私の勘違いだったんだよ、取り消してくれるよね?」
 天使の管理人はうつむいたまま言った。
「みんなに怪しまれるから、出て話そう」
 由有子は天使の管理人と部屋を出た。

 5

 夕空の中庭で、由有子は改めて、天使の管理人に言った。
「私の勘違いだったんだよ、私の自殺は取り消してくれるよね?」
「これは極めて物理的な問題だよ。
 お前は勘違いが原因にせよ、最後の一歩を踏み出してしまったんだ。
 今は一時的な猶予期間で、それが過ぎたら予定通り落ちるしかない」
「あんなズルして、屋上に戻ったんだから、物理なんて関係ないじゃん?」
「あれは俺の力じゃない。どうにもできない」
「たとえば、飛び降りる前にさかのぼって私を止めるとかできないの?」
「だから俺も地上ではたいしたことできないんだ」
 由有子は天使の管理人の革ジャンの襟を掴んで頼んだ。
「なんとかしてよ、勘違いで自殺なんて、親にも成一さんにも顔向けできないよ」
「……」
「そうだ、ほら、私さ、大伴さん、立ち直らせたよね、その手柄でさ、帳消しにできるんじゃないの?」
「そんな取り引きはないんだ……」
「なんとかしてよ、やだよ、勘違いで死ぬなんてイヤー!」
「……」
「黙ってないで、なんとか言ってよ、このお」
 由有子は天使の管理人の襟を揺さぶると、さすがに彼も怒鳴った。
「なんだよ、逆切れかよ。
 お前の状況には同情するけどな、元々勘違いしたのはお前自身の責任だぞ」
「そうかもしれないけど、お願い、助けてよー」

 そこへ、誰かが中庭に出てきて声をかけてきた。
「ゆうこさん、一人で泣いたりして、どうしたの?」
 それはかすみだった。
「かすみちゃん、なんでもないの」
 由有子はかすみに強がってみせるが、頬一面の涙は簡単には拭えない。
「今日の午後から、ゆうこさん、変だよ」
「あ、さっきは怒鳴ってごめん。変じゃないけどさ、私、おっちょこちょいだから、私が死んだら笑っていいよ」
「どうして、ゆうこさんが死んで私が笑うわけないじゃない?
 それに、ゆうこさんは最高の看護婦さんだよ、真夜中や明け方に私が眠れないでいると、いつもご本を読んだり、話相手になってくれたでしょ。
 私のために自分の眠る時間まで削ってつきあってくれた、最高の看護婦さんだよ」
「そんな風に褒めてくれるのはかすみちゃんだけだよ、ありがとう。
 だけど私、おっちょこちょいだからね、まもなく死ぬの」
「やだ、そんなこと言わないで。
 約束したでしょ、私は病気を治して、学校へ行って、きっとゆうこさんみたいな優しい看護婦さんになるの。
 わからないことがあったら、いつでも聞いていいよって約束してくれたじゃない。
 私が一人前の看護婦さんになるまで、ずっと相談にのってくれるって約束したじゃない」
「ごめんね、約束は守れないかな」
 そこで天使の管理人の声が響いた。
「そろそろ日没の時間だ」
「わかった」
 そこで由有子は天使の管理人に答えるとかすみを振り向いた。
「お別れだよ」
「いやだよ、約束したじゃない」
 由有子はかすみの腕を振り払って、天使の管理人と屋上に向かった。
 

 屋上にたどり着いて、天使の管理人に付き添われて、由有子は自分が飛び降りた地点に立った。
「力になれなくて悪かったな」
 天使の管理人が言うと、由有子もあきらめて答えた。
「ううん、あんたのせいじゃない、私の勘違いだもん。
 仕方ないよ、おっちょこちょいの私らしいや」
「うん、きっとまた転生できるから」
「ちょっと最後に親の声聞いていい?」
「ああ、まだ少し時間あるよ」
 由有子は携帯を取り出し、ふと振り向いて屋上を歩いてくる婦長の姿を見つけた。
「あ、婦長、すみません、私、もう仕事ができないんです……」
 しかし、婦長の服装はナースの制服ではなく、羽毛でできたマントのようだった。
 天使の管理人も振り向いて慌てて言った。
「あ、ボス」
 由有子は「ボス?」と繰り返しぽかんと口を開けた。
 よく見ると婦長に似てるけど、もっと高貴な顔だ。
「ああ、俺の上司の天使長様だ」
 由有子と天使の管理人のそばに立った天使長は微笑みを浮かべた。
「二人ともご苦労様。
 さて、アントゥレフォッサ、この天使に何か頼まれたようね?」
「はい、天使長メフィスルーヤマエリミカエル、この天使が勘違いで身投げしたので、助けてくれと頼まれました」
「そんな虫のいい頼みを聞くつもりかしら?」
「まさか。規則にない運命の改変はすべからず、が規則であります」
「よろしい、あなたの任務は何かしら?」
「はあ?
 天使がちゃんと仕事できるか監視したり、できない場合は補助することであります」
「その補助とは、この天使が次の天使を育てるという仕事を補助することも入りますか?」
 天使長の問いかけに天使の管理人はハッと笑みを浮かべ、由有子をちらりと見た。
「あっ、入ります。
 この天使由有子が次の天使かすみを育てる仕事がまだ途中であります。
 その仕事を補助するのも私の任務です」
「規則と任務が矛盾する場合は?」
「はい、天使長様の判断に沿い、しかるべく」
「由有子さん、かすみちゃんをしっかり育てて下さい。
 頼みましたよ」
 天使長は由有子の手に触れると次第に輝いて消えていった。
「よかったな、俺はこれからもお前の手伝いをする。
 迷ったら、心の光を見つめ、心の声を聞けよ」
 そう言うと天使の管理人の姿も次第に見えなくなった。

 大きな夕日が屋上にたたずむ由有子の微笑を染めていた。      了
 

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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

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