銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
このページのトップへ
短編競作企画 参加作品     お題「チョコレート」「猫」「携帯電話」



 「ありふれた危機」


 夕方のハンバーガーショップは高校生で賑わっていた。バレンタインのせいか、カップルだけでなく、男子だけのグループ、女子だけのグループもやたらハイテンションだ。

 航太は、向かいの席の沙耶に話しかける。
「先週、冷蔵庫の奥におせちの残りを発見して食べたら、まずかったよ」
 航太は高校三年、最近は緊張の極致でほぼジュケンハイ。一方、沙耶は高校一年だからナマケモノノのぬいぐるみのようにお気楽だ。
「二月におせち?バカだよそりゃ」
「お前の言葉、歯に衣、着てないし、衣ほすてふ天の橋立 持統天皇だろ」
「そんな有名なの試験に出ないよ」
「じゃ、我が衣手に雪は降りつつ 光孝天皇 光速は誘電率×透磁率のルート分の1」
「あ、そうそう、これ、義理だよ」
 沙耶はカバンを開けてひっくり返し、ピンクの紙包みをテーブルに落とした。
「お前ね、その冷たい言い方、出し方ないだろ?」
「だって本命じゃないんだし」
 航太はまわりを見回しながら、ピンクの包みを引き寄せた。
「だからさ。誰かいい女が目撃してて、やばいよ、あんな小娘に航太を取られるぐらいなら、やっぱ私が勇気出して渡そうって、なるかもしんないだろ?」
「ないない、寒いよ、その妄想」
「お前、今、口がラキスタだし……、なんかこの包み、軽くね?」
 航太は言いながら包み紙を破り、ペン缶サイズの紙箱を開いた。

「おっ!」

「えへへ、お母さんがね、航太は甘いの苦手だから、きっとこっちの方が喜ぶって」
 紙箱の中にあったのは牛丼屋の券だ。
「まじ?牛丼の回数券じゃん、まじ嬉しいよ。
 今までもらったプレゼントのうちでイッチャン嬉しい」
「うっ、たかが牛丼の券でそこまで喜ばれると、妹としては悲しいよ」
「何でお前が悲しいんだよ」
「ま、いいや、用は済んだし、私、帰るね」
 そこで航太が沙耶を呼び止めた。
「待てよ、母さんから父さんへの義理はないわけ?」
「ううん、何も預からなかったよ」
「そうか。やっぱ、あの二人の仲は冷え切ってんだな」
「仕方ないよ」

 兄妹はハンバーガーショップを後にして、商店街を歩き出した。
 道を歩いてゆくカップルはみんな楽しそうだ。

 航太は沙耶に聞く。
「ところで、自分の本命には、なんか渡したのか?」
「ノーコメント」
 沙耶が顔を伏せてしまったので、航太は慌てて話題を変える。
「お前さ、小さい頃、父さん母さんの喧嘩を盗み聞きしたの覚えてる?」
「覚えてないよ」
「あれは……」
 
 航太が小学校3年、沙耶が1年の時だった。
 その頃、兄妹の部屋は仕切りがない洋室だった。
 真夜中、航太は甲高い物音に目を覚ました。
 音としては鍋かなんかが勢いよく床に落ちた衝撃音だ。
 さらに両親が何か怒鳴り合う声がした。
 航太は大変だと思い、沙耶を揺り起こした。
「あ、なあに?」
「パパとママがケンカしてる。こっそり覗いて来よう」
「うん」
「大きな声を立てちゃダメだ、これぐらいの声で話すこと」
 航太が小さく言うと、沙耶は囁いた。
「わかったぁ」
 ダイニングに通じるドアの手前に来ると、両親の話がなんとか聞こえた。
 沙耶が振り向いて囁き声で聞いた。
「ぉ兄ちゃん、チョコレートは枯れてくれって、どぅぃぅことぉ?」
 沙耶の聞き違いを航太が直してやる。
「違うよ、『千代子 俺と別れてくれ』って言ったんだよ。
 パパがママに離婚しようって言ったんだ」
「ふぅん、そぅかぁ?」

「えー? 私が、チョコレートは枯れてくれ、なんて言ったの?」
 沙耶は航太を見て笑う。
「ああ、あん時は、まじヤバイと思ったよ。
 それから、お前は離婚の意味わからなくて、リコンて何?て聞いた。
 それで俺が、結婚の反対だって教えたんだよ」
「でも、結果的に離婚じゃなくてよかったね」
 沙耶が言うと、航太はうなづいた。
「ああ、あれから半年で別居したけど、いつでも互いの家に行って会えるしな」
「お母さんは進歩派だからね、無駄な家庭破壊はしないのよ」
「母さん、進歩派なのかな?」
「最近はアセンションの話ばかり聞かされるよ」
「アセンションか、訳わかんねー」
「だからさ、その辺が別居の理由なんだよ」
 航太は溜め息を吐いた。

「あ、お母さんからメールだ」
 沙耶は素早くメールを確認する。
「今晩、遅くなるから先に食べてだってえ?
 まさかお母さん、新しい恋人に告白成功してたり?」
 沙耶がほぼ残業のない母のことを心配して言うと、航太は怒った。
「変な想像すんのやめろよ、俺の母さんだぞ」
「心配してるんじゃないの」
「とにかく変な想像すんな」
 二人は、通行人の好奇の目に気付いて黙り込む。

 その時、航太のポケットで、父さんに設定してる着信曲「地上の星」が鳴り響いた。
「もしもし、俺、うん……、うん、わかった……、じゃ……」
 航太は通話を終えると、沙耶に伝える。
「父さんも遅くなるんだってさ。夕めし、一緒に食う?」
 沙耶はさらに心配しだす。
「やだ、お母さんもお父さんも新しい恋人と浮気だ、ついに別居から離婚に発展だよ。
 きっと私たちも、今までみたいに会えなくなるよ」
「それはないよ」
「どうしてよ?新しい相手と遠くに引っ越したら、もう簡単に会えないよ!」
「ないって」
 航太は笑みを浮かべて言った。
「携帯が切れる直前、母さんの猫撫で声が父さんを呼んでた」

「……あっ」
「あいつら、なにげに、やるね」
「うん」
 沙耶は今にも溢れそうだった泪を止め、急に笑みをふくらませた。      了




 f_02.gif プログ村

 ホーム トップへ
スポンサーサイト
このページのトップへ

FC2Ad

Information

gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    『地球人も宇宙人』。
    写真はッシェル・ポルナ
    レフの真似です

    ↓よろしければ、おひとつ、ポチお願いします

Calendar

06月 « 2017年07月 » 08月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

 

新着はこちら!New!

全小説 ツリーリスト

最近いただいたコメントなど

アクセスカウンター

リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

twitter小説

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

最近のトラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。