銀河径一郎 小説、物語の部屋

銀河径一郎による不思議な物語、怖い話、面白い小説、ファンタジーなど。


 部屋に忍び込んだ勝之進はわずかな明かりに照らされた愛しい早季姫の寝顔にほっとした。だが見とれている暇はない。
 勝之進は早季姫の口を布で押さえながら肩を揺り起こした。
「うッ、」
 最初、早季姫は暴漢が忍び込み襲って来たのかと思った。 
 黒装束から目だけがぎらぎらと光っている。
「姫、殿が徳川方に付きましたゆえ、お命を救いに参りました。」
「その声は?」
「はい、勝之進が早季姫様を救い出します。」
 しかし、早季姫は首を横に振る。
「私は勝之進とは参りません。」
「ここで駄々をこねている暇はないのです。
 もうすぐ武田は姫たちを処刑に来ますぞ。」
 すでに隣の部屋で、おふうたちがばたばたと出てゆく音がする。

 早季姫は勝之進に強引に手をつかまれ、上衣を一枚被されて外へ出た。
 前方には同じように、黒装束の忍び二名に手を引かれたおふうと太刀を帯びた仙千代、虎之助の姿がぼんやりと見えた。
「さ、お急ぎくだされ、はぐれてしまう、」
 そう言って急ごうとした時、前方で
「おのれ、足抜けかあ」と声が上がった。
 次の瞬間、太刀と太刀がぶつかり、夜闇に鋼のぶつかると音と火花が散る。
「足抜けだあ」
 松明が駆け寄り、警護兵がどんどん集まる。
「いかん、姫、こちらへ、」
 早季姫の手を引いていた忍び姿の勝之進は逆の方角へ向けて走った。
 勝之進に抱きかかえられて、早季姫は雑草の茂った土塁を滑り降りて、四条通りと呼ばれた大通りを避け、野原を進んだ。

 夜が開けはじめた。
 黒衣装を脱ぎ捨てた勝之進と手下二名は、町のはずれでぎりぎりまで他の仲間を待っていたのだが、その仲間が来る気配はない。
「やむを得ん。早季姫様、まもなく出立しますぞ。」
 すると、ここへ来て落ち着きを取り戻した早季姫が平然と言い放った。
「わらわはもう逃げませぬ、自害いたします、髪を切って父上に届けてください。」
 勝之進が驚いて言う。
「何を言うのです、我ら命を捨てて姫を助けに参ったのですぞ、
 落ち合う筈のこの場に来ないからは、おそらく残りの仲間は討ち死に、おふう様たちも斬られたか、今日にも処刑されるに相違ない。
 ここで早季姫様に自害されては、すべてが無駄になるのですぞ。」
「そなたたちの申すは侍の理屈。
 私はすでに勝頼様と契ってしまったのです。
 かくなる上は自害して勝頼様にお詫びするしかない。」
 早季姫が言い張るが、勝之進も引き下がらない。
「いいえ、違います。
 まだ祝言を上げてないからには早季姫様は奥平家の者です。
 お父上は姫をこの勝之進の嫁にするとお決めになったのですぞ。」
「勝手すぎます。
 私はそなたが大嫌いです。」
「それは、あまりな言われようです。
 私は早季姫様のためを思い、ここまで来たのですぞ。
 早季姫様は父上や奥平の家が姫に与えた恩をお忘れになると言うのですか?」
 それを言われると早季姫も口が重たくなる。
「恩は、恩はたしかにあります。
 でも、どうして私を人質になされたのです。
 私とてずっと奥平のみんなと暮らしていた方がよかった、勝頼様など会わない方がずっと穏やかに暮らせたのに、」
 早季姫は涙声になった。

 そこへ一人の武士の声が割り込んできた。
「立ち聞きさせてもらったぞ、やはり奥平は徳川に寝返ったらしいな。」
「貴様、何者、」
 勝之進と手下二人は抜刀して身構えた。
「武藤喜兵衛、」
 喜兵衛は名乗ってゆっくりと刀を抜いた。武藤喜兵衛は父真田幸徳譲りの智略で武田家中には広く名を知られていた。
 実際、顔を見ればまだ二十代後半の凛々しい若武者である。
「おお、噂はかねがね聞いておる。
 会ってしまったが貴殿の運の尽き、その首、井岡勝之進が土産にいただく。」
「奥平家家臣、谷嶋五郎兵衛、参る。」
 喜兵衛に向かって若い一人が抜刀し突き進んだ。
 一瞬、喜兵衛は素早く身をひねって相手の太刀筋を見切り、斜めに動きつつ逆袈裟に斬った。
「うぎぁッ」
 間断なく次の敵に向かい、上段に振りかぶる。
「奥平家家臣、伊与田利助。」
 次の手下はそう名乗ると、喜兵衛の太刀を跳ね上げようとした。
 が、喜兵衛は素早く切っ先を引いて、隙の胴を抜いた。
 喜兵衛は勝之進に構えを向ける。

「うおッ」
 あッという間に二人の手下を斬り倒された勝之進は、精一杯の威嚇に金切り声を張り上げて剣を小刻みに震わせた。
「おのれ、おりゃあ、」
 喜兵衛は小手を狙って来た勝之進の剣先を交わして胴を突きあげる。
 それをかわした勝之進が打ち込んでくるのを喜兵衛は太刀の棟でしっかり受け止め、跳ね返すと、片手で相手が引くのを追いながら水平に太刀を振るった。
「う、おのれ。」
 勝之進は利き腕の傷口を押さえながら素早く逃げ出した。

 喜兵衛は深追いせずに、刀の血を拭い、鞘に納めながら言った。
「姫を残して逃げるとはなんとも情けない奴よ。」
 早季姫はその場に跪くと懐刀を取り出した。
「どうぞ私の最期を勝頼様にお伝えください」
 喜兵衛は早季姫の懐刀を取り上げて言う。
「おなごが死に急ぐことはない。」
「何をなさいます、そのように言われたとて、今更、契った勝頼様を忘れることなぞできません。」
「しかし生き延びられるものを、わざわざ死ぬのも理不尽ではないか。」
「いえ、死んでお詫びせねば、勝頼様に申し訳が立ちませぬ。」
「やれやれ、呆れるほど一途なことだ。
 だが、おまえが死んだとて勝頼様としてもなんの慰みにもならん。
 とすれば、それは無駄な死ではないか、どうかな?」
「それでは私の気持ちが収まりません。」
「ここで他の武田家臣に見つかってはわしとて守ってやれぬ。
 ここは、農民か、尼にでもなりなされ、真田の里ならいくらでも姫をかくまうところは世話してやれるぞ、どうだ?」
 喜兵衛が命を救ってやろうというのを、早季姫はにべもなく断る。
「そのようなことはできません。
 私の人生と命は勝頼様に捧げたのです。」
 早季姫が舌を噛みき切ろうとするのを察し、喜兵衛は早季姫の口に手拭いを噛ませた。
 いくら説得しても、首を横に振るばかりの早季姫を前に、喜兵衛は呆れながらも、しばらく考え込み、不意に口を開いた。
「心底、姫が勝頼様を慕うなら、生きて勝頼様にご奉公する策がある。
 どうする?」
 早季姫は目を輝かせてうなづいた。
 喜兵衛は手拭いを外しながら言う。
「しかし、それは死ぬより辛い奉公だぞ。」
「どのような奉公ですか?」
「うむ、姫は女を捨て、武者になるのだ。
 わしが推挙するから、武者として勝頼様の親衛隊に入り勤めるのだ。
 そして決して正体を明かしてはならぬ。
 それでもよいか?」
「はい、おそばにお仕えできるだけで幸せです。」
「そのために、まず死ぬより辛い思いをせねばならぬぞ。
 わしでも尻込みする、辛い苦しみにおなごのお前が耐えられるか?」
 喜兵衛は脅すように念を押した。
 すると、早季姫は「勝頼様のためなら、辛いことなどありましょうか」と言い放った。 
 しかし、喜兵衛の策は生半可なものではなかった。
 まず絶対に容貌が見破られないように、燃える松明をあてがい早季姫の目のまわりを潰しにかかる。早季姫は木の棒をきつく噛んだまま猿轡をされていたが、あまりの痛みに絶叫した。
 爛れた顔に水をかけながら喜兵衛が言う。
「さあ、次はもっと大変だぞ、火の点いた酒をあおって声を潰すのだ。」
「はい。」
「ただし、火が肺の臓に入ると間違いなく死ぬぞ。
 肺の臓の一寸手前で火を吐き出し、喉だけを焼くのだ。
 わしもしたことがないゆえ、ここで吐けとも教えられん。
 頼りはお前の勘だけだ。
 よいな?」
「もはや生命は捨てております。
 南無八幡大菩薩、願わくば勝頼様をお守りするために吾を生かした給え。」
 早季姫は火の点いた酒を飲み込み、絶叫した。


 一方、素早く古府中を脱出した勝之進は怒りで血管がはちきれそうだった。
「おのれ、早季め、命賭けで救い出してやったものを。
 これでは決死の救出を訴えた俺の立場がまるでないではないか。
 どんな顔で家に戻れと言うのだ。
 俺をこけにするにもほどがある。
 早季め、もし自害しておらぬならば、おまえを地の果てまでも追いかけて、思い切り辱め、地獄に送ってやるまでだ。」
 勝之進の早季姫に対する愛は、またたく間に、すっかり憎しみへと変貌していたのだ。 


 真田の里に入った早季はすでに武者姿で姫の面影は少しもなかった。
 頭巾より出した目の周りは火傷で爛れ、頭巾の下はおそらくもっと醜いであろうと推察された。もちろん長い髪はばっさりと落とし髷を結っている。
 そのうえ喉も潰れて、口から出るのは声というより鏑矢がたてる風音のようだ。
 また胸には汚れたさらしをきつくまいて乳房の膨らみをつぶしてあったし、素手で樹木を叩き、棒で素手を叩かれ、白魚のような手を醜い豆だらけの拳に変えていた。
 もはや、この醜い武者が早季姫と見破る者はいまい。
 喜兵衛が言う。
「早季殿、ここで、お前は勝頼様の親衛隊にふさわしい技を身につけねばならない。
 といっても、もともと非力のお前がにわかに鍛錬したとて、速さと力が必要な剣は不向きじゃ。」 
 早季は目に不安を露わにして聞く。
「ではどうすればよいのですか?」
 喜兵衛がうなづいて言う。
「鉄砲じゃ。あれならば非力なお前でも大男を倒せる。
 つまり、勝頼様の役に立つということじゃ。」
 早季は頭巾の下で笑みをこぼした。
「わかりました。きっと鉄砲の名手になるよう精進いたします。」
「うむ。それから名前だが、早季ではまずい。
 これからは、そうだな、早季の字を姓と名に入れて早坂季之助と名乗るがよい。」
「はい、早坂季之助。
 いい名ですね、ありがとうございます。」
「うむ、せいぜい励めよ。」
 
 喜兵衛が兄の真田昌輝の屋敷を不意に訪れると、兄は驚いた。
「昌幸、いつの間に帰った?」
「兄上にはお変わりなく。」
「おお、そこが取り柄じゃ。
 しかし、一体、どうしたのじゃ?
 その者は?」
「他でもありません。
 これは顔や腕に傷を受けて外されたのを貰い受けた早坂季之助なる者です。
 こやつに鉄砲を仕込んで頂けませぬか。」
「なんだ、それだけのためにわざわざ来たのか?」
「はい、この者ならきっと勝頼様をお守りするに違いないと見込みました。」
「始めから御屋形様に推挙するつもりか。
 昌幸、さては何か企んでおるな?」
「はははっ、何も。
 ただ御屋形様をお守りする心意気は、武田家中でもこやつの右に出る者はなかろうと思います。それだけは私が証文を書きます。」
「そうか、あいわかった。」
 真田昌輝は早坂季之助を引き受けた。


 そして一年あまり、真田の里で鉄砲を仕込まれた後、勝頼に謁見して、念願叶って親衛隊となったわけである。
 その夜遅く、早季は、信玄が開いたという隠し湯に入った。
 全裸になるのは危険だから、汚れたさらしを巻き、褌をしたままだったが、それでも早季は愛する勝頼のそばにいられるようになった安堵に包まれていた。
 決して名乗ることは許されない。
 しかし、早季は勝頼のために生きているというだけで喜びが膨らむのを感じていた。
 湯船につかり三日月を見上げているうち、ふと誰かが覗いているような気がして振り向くと岩の向こうに黒い影が動いた。
「誰だ?」
 早季の風のような小さな声に、黒い影は問いには答えず、岩場をこちらに向かって近づいて来るようだ。
 早季は恐怖を感じて湯船から上がりかけた。
 そこへ漢詩を吟ずる新たな声が近づいてきた。
「お、そこにいるのは季之助か、どうだ湯は?」
 声の主は喜兵衛だ。早季はほっとして人差し指で黒い影のいたあたりを示した。
「あそこに怪しい人影が。」
 早季のかすれた声に喜兵衛は振り向いたが、影は見当たらない。
「うん、今は誰もいないようだが。」
 早季は喜兵衛と離れたくなくて言った。
「喜兵衛殿、背中を流します。」
「いや、それはちとまずかろう。」
「流させて下さい、今一人で出て行きたくないのです。」
「ふむ、そういうことなら甘えるか。」
 喜兵衛は早季に背中を流してもらい呟いた。
「こうしておると、この世に戦などないような気がしてくるのお。」
「はい、戦さえなければ、この世は楽しいでしょう。」
「まったくだの。
 お主も辛かろう。」
「……。」
 世が世なら、醜い武者の季之助は、きらびやかな装束に身を包み、勝頼の子を抱いて微笑む側室早季姫であったに違いないのだ。
 喜兵衛は話を変える。
「ところで、さっきの人影だが心当たりでもあるか?」
「なんとも言えません。
 しかし、もしかしたら勝之進ではないかという気がするのです。」
「勝之進と言うと、わしが傷を負わせた奥平の者だな?」
「はい。
 勝之進は、昔、熱心に言い寄ってきたのですが、とんでもない見下げた男なのです。」
 季之助は昔語りを始めた。
 
 梅の蕾がほころろびはじめ、作手の里にも春の足音が聞こえてきた。
 井岡勝之進は、普請役の上司にあたる奥平久右衛門の家を訪れて、話しこんでいた。
 そこへ、突然、若い女の声がした。
「父上、ただ今、帰りました。」
「うん、和尚になんぞ言われたか?」
 すると、襖が開いて、早季姫が部屋に入ってきて、勝之進に気付いて詫びた。
「すみません、ご来客とは知りませんで。」
 そういうと早季姫はすぐに襖を閉めて下がった。
 勝之進は一目惚れした。
「殿、今の姫はどなたでございます?」
「あれは娘の早季じゃ、」
「お美しゅうございますな。」
「わしの娘とは思えんか?」
「いえ、そのような、」
「かまわん、わしも妻も、猪が蝶を産んだようなものじゃと思っておるに。
 ところがこの蝶、もう年頃というのに色気より食い気で困るわ。」
 そこで勝之進は自分にも勝ち目はあると知り、それから頻繁に久右衛門邸を訪れるようになった。

 そしてある晩、父が早季に言った。
「早季、勝之進がな、お前を嫁に欲しいと申してきおった。
 勝之進は見処のある男だ、わしは悪くない話だと思うが、どうだ?」
 早季姫の方は寝耳に水の話で、返答に困った。
「私は嫁入りなどまだ考えておりません。勝之進様のことも好きとも嫌いとも思っていませんでした。
 時をかけて考えさせていただくことはできませんか?」
「こういうことは勢いで決めるものじゃ、まったくおまえは悠長で困る。」
 時をかけてと言われた勝之進はいよいよ熱心に邸に通うようになり、早季も次第に勝之進の良さを認め始めた。
 桜が咲き揃うと、早季は親と連れだって花見に出かけ、勝之進も同席した。
 親たちは頃合いを見て早季と勝之進を二人きりにした。
「今日はずいぶん目の保養になりました。美しい桜に、美しい早季殿。」
「まあ、お上手なこと。」
 早季は笑った。
 こんなに熱心だし、父母も認めている相手だ。早季の心は傾きかけていた。
「早季殿、だいぶ時をかけて考えていただいたと思うが、そろそろ良い返事をいただけませんか?」
 早季は桜の花を見上げて、良い答えを返そうと口を開きかけた。
 その時、偶然、一枚の花びらが舞い降りて早季の唇に貼り付いた。
 早季は花びらを指に取って眺めた。花びらが早季の答えを塞いだように感じて少し嫌な気分がしたのだ。
 と、勝之進の方も「まだですか、ではもう少し待ちましょう」と話を切り上げた。

 それから五日ほどして、勝之進の家の下女が早季に会いに来た。
 早季は勝之進が恋文でもよこしたのかとときめいたのだが、様子が変だった。
「私が早季ですが、何か。」
「姫様にこんなこと申し上げるのは筋違いだとわかっとります。
 だども、私の仲間のおきよのことだに。私ら身分が身分だから泣き寝入りするしかないんけど、けんど、あんまりおきよが可哀想だに。」
「はあ、」
「おきよは勝之進様に口説かれて、いい仲でした。」
 早季は胸騒ぎを覚えた。
「去年の春からす、それで勝之進様の子を身ごもったんだに。
 けんど、勝之進様に、子供はまたいくらでも作れる、来年早々にはおきよの親にも話して祝言を上げるからと言いくるめられて堕ろしただに。」
 早季はぶるぶると震え出した。
「しかし、年が明けても、勝之進様は何も言ってこないばかりか、何かにつけて、おきよを避けるようにしなさるだに。
 いえ、姫様が悪いなんて言うつもりはこれっぽっちもねえですだ。
 たんだ、おきよは勝之進様に捨てられたんす。
 ついこの前、桜が散る中、おきよは首をくくって死にましただ。」
 その気なら武家は側室を何人も持てる時代なのである。にもかかわらず、想いを通じた女に嘘を吐き、腹の子を堕ろさせ、逃げまわる卑怯は許されるものではない。

「その話を聞いて、私の初恋もその桜とともに散ったのです。」
 早季が話し終えると喜兵衛はうなづいた。
「勝之進とやら、それだけの男だったか。」
 

 天正二年五月、武田軍は徳川領に攻め入り、高天神城の攻略にとりかかった。
 その本陣の帷幕の中で、早季は弾込めした鉄砲を上に向けて右手で支え、火を灯した火縄を左手に捧げた姿勢で控えていた。
「家康は武田が怖ろしくて動けないようだ。」
 床几に腰掛けた勝頼は脇に控えていた土屋惣蔵昌恒に話しかけた。
「御意、このまま指をくわえて城を見殺しにしては国中の土豪どもの心も家康から離れるでしょう。
 我らが駿河、三河を切り取るのも時間の問題かと思いまする。」
「うむ、ここを落としたら、次は寝返った奥平の長篠城を攻め落とすぞ。
 つまらぬ謀反を起こした奥平を、わしは絶対に許さん。」
「お館様との縁談を前に裏切るなど、まことに愚の骨頂でございますからな、」
 その言葉に勝頼はいよいよ強く歯ぎしりした。
 広場を挟んで見つめていた早季は、勝頼が自分のことを思い出して怒りをつのらせているのをひしひしと感じた。
 殿は私との仲を残酷に裂かれたことで今も怒りをたぎらせている……。
 できることなら、今ここで自分が無事であると明かしたい。
 しかし、早季が名乗り出たら勝頼は早季の処刑を命じる他ない。仮に早季自身が処刑の苦しみを耐えられても、処刑を命じる勝頼の苦しみは延々と終わらないだろう。
 早季はうつむいて頭巾の中で唇を噛んだ。

 高天神城はひと月で落城した。             

 (下編に続く)


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gingak
  • Author: gingak
  • 銀河 径一郎
    (ケイイチロー・ギンガ)
    好きな言葉は『信じる』。
    飛べなくても頭が悪くても
    地球人も宇宙人だ(笑)

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