吐き気のピークは越えたかも知れない。
午前、部屋にやって来た佐藤先生からクリーンルームの説明をされた。
「今のこころちゃんの状態は、薬が効いて、白血球がぐんと減ってきてるんだ。わかる?」
「ええ、なんとなく」
「普通ならなんでもない細菌やウィルスでも、今のこころちゃんには恐ろしい猛毒だ」
「はい」
「そこで、元気な白血球が元の数に戻るまで、悪い細菌なんかが入り込めない特別きれいな部屋に移ってもらう」
「わかりました」
「もうひとつ注意がある。薬の影響で、血小板もぐんと減っている。
血小板はどういう役目をしてるか知ってるかな?」
「ちょっと」
「うん、血を固めて、止めるんだ。
今のこころちゃんは、それが難しくなって、口内炎やアザになりやすいし、ちょっとぶっても大怪我と同じぐらい大変になる。
だから怪我をしないように、いつもよりしとやかにしないとだめだよ」
「ふ、そんなんできないよ。私、おっちょこちょいだし」
「でも、静かにするのが治療の一部なんだよ、がんばれ!」
「はあい」
「サー」
佐藤先生はガッツポーズをして、私を笑わせた。
クリーンルームはすでに翔子ちゃんが三日前から入っている。
いよいよこころもベッドのまま、クリーンルームの病棟に運ばれ、中に入った。
途中、翔子ちゃんの部屋らしい個室を通りすぎたが、カーテンで中は見えなかった。
そして私のクリーンルーム、トイレもある完全個室だ。
中は窓際がベッドで、廊下側半分は透明の厚いカーテンで仕切られている。
いつもよりすごい厳重なマスクをして、目だけだしたアカネさんが注意する。
「マニュアルは読んだと思うけど、私たちも普通は中には入れないから、なんでも自分でしてね」
「はい、わかりました」
「これはとっても重要だから忘れないで。
トイレとか立って頭がふらふらしたら、そっと体をまるめてうずくまってね。
無理して頑張って、倒れて脳内出血したら、それはかなり危険だから」
いつも優しいアカネさんに厳しく注意されて、さすがにドキッとした。
親ともガラス越しのインターホンでしか話せない。
クリーンルームにあるのは孤独な闘いなのだ。
なんて思って見渡すと、嬉しい発見。
テレビとCDラジカセ、DVDが病室に備え付けられている。
リモコンはビニールの袋入りだ。
携帯も絶対、取り出してはいけないと注意され、ビニール袋に入れて持ち込みできた。
厚いビニールの上からだと思うボタンがうまく押せなくて、大変な苦労をしてメールを打った。
《クリーンルーム入ったよ》
と簡単なメールを送ると、サトミから
《え、掃除してんの?》とボケメール。
普通はクリーンルームなんて知らないから無理ないか。
《大変そうね、応援してるからね、ファイト!》とカオリはいつも優しい。
熱は少しあったが、私はテレビを眺めたり、CDを聞いたりしてすごした。
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