私のベッドから見て一番奥、窓際の小学2年生の女の子優奈ちゃんが午前の診察で許可が出て退院したのだ。
もちろん、喜ぶべきことなんだけど、ぽつんとベッドが空いた。
すると、今までは私に何かと生意気な口を聞いてきた翔子ちゃんが、突然、自分のベッドで泣き出したのだ。
退院した子はいつも寝てたから、こころは殆ど話もしなかったのだが、どうしたのかと翔子ちゃんに聞いてみた。
「だって優奈ちゃん、腸閉塞の手術して、一ヶ月ぐらいで退院だよ。
そしてもう二度と入院ないんだよ。
私なんか、半年たっても、ちょっと退院しても、また次の入院だよ。
不公平だよ」
生意気な口を聞いても、やっぱり小学生なんだ。
翔子ちゃんは私と同じ白血病らしい。
看護士のアカネさんが何かあったら、応援してあげて、私たちにも知らせてねと言っていた。
私は翔子ちゃんのベッドに行って背中を撫でてあげた。
「翔子ちゃんだって順調に治ってるでしょ」
「けどさ」
「けどじゃないの。病気の治りは人によって違うんだから、自分の病気を少しずつ治せばいいんだよ」
「……うん」
「大体ね、隣の人が退院したぐらいで、先輩が泣いてたら、後輩の私が泣けないよ」
そう言うと、翔子ちゃんはフフッと息をした。
「そうだよね、よし、うそ泣き終了」
そう言って翔子ちゃんは涙を拭って笑顔を見せた。
おいおい、うそ泣きじゃないだろ。
私は笑いをこらえた。
でも本当は翔子ちゃんが隣にいて泣いてなかったら、私がこっそり膝を抱えて泣きそうだったかもしれない。
翔子ちゃんが院内学級に出かけた後、こころは佐藤先生に診察室に呼ばれた。
「なんですか?」
「調子はどうだい?」
「午前にも聞かれたよ」
「ま、調子はどうは先生のこんにちはだよ」
ここで私は翔子ちゃんのことを言わなきゃと気付いた。
「そうだ、窓際の優奈ちゃんが退院したでしょ、
それで翔子ちゃんが泣き出しちゃって、慰めたけど、困ったよ」
「へえ、そうだったんだ。
こころちゃんがお姉さんしてくれたのか、ありがとう」
佐藤先生はまぶしそうに私を見て、私は照れた。
「別に何もしてないけどね」
「呼び出したのは他でもない、そんな、素敵なこころちゃんに俺からプレゼント」
佐藤先生はケースに入ったCDを差し出した。
ジャケットを読んだ私は、少し噴き出しそうなタイトルだと思った。
「愛は勝つ?」
「そう、KANの、愛は勝つ。
俺がね、こころちゃんぐらいの歳の頃に流行った歌でさ、
病気と闘うような歌詞にも聞こえて、受け持ちの皆から好評なんだよ。
よかったら聞いてくれ」
「ありがとう」
早速、病室でCDラジカセにかけると、辛い時を励ましてくれる歌で、病気の私を応援してくれるようにも聞こえて、すごくよかった。
入院のテーマソングになりそう。
ガッツポーズの佐藤先生らしいや。
嬉しくて泣けてきた。
4治療−6 へ
メルコイ 目次へ
ホーム トップへ


